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☆島旅2000秋(第6話=波照間「みのる荘のオジィちゃん」)
島には<たましろ>という異常に食事の多い、知る人ぞ知る民宿があったが、私たちが泊まったのは<みのる荘>という、島で一番キレイらしい宿だった。その夜、食事を頂いていると、ヘルパーさんが「一人送迎で500円かかりますけど、今晩、星空観測に行かれますか?」と声をかけてくれた。私は、特に星が大好きっていうわけでもないけれど、まだ時間も早かったし、波照間を少しでも見たかったので、相方と二人参加することにした。7時45分に玄関に集合ということになり、部屋でくつろいでいると、突然「星空観測に行く人〜」と大声が聞こえてきた。まだ早かったけれど、玄関に降りていくと、声の主は宿中に響き渡る声で部屋の扉を叩いて回っていた。そんなにしても、行くのは4人だけで他の人は行かないのに...と思っていると声の主が戻ってきた。それが、私たちと<みのる荘>のオジィちゃんの出会いだった。全員が集まると、オジィちゃんは乱暴にワゴンを出発させてすごいスピードで走り始めた。と思うと、曲がり角で急に止まり、スタスタと角の中央まで歩いていった。びっくりしている私の横の窓から、腕をヌッと差し込んで「ヤシガニだ」と言った。見てみると、オジィちゃんの手がハサミの大きなザリガニのようなものを掴んでいた。「うわぁ〜」と私が手を出して触ろうとすると「ダメだ。挟まれたらいかんから。」というようなことを島の言葉で言った。「大きかったら食べるけれど、これはまだ子供だから。可哀想だ。」と優しいことを言っている割には、そのヤシガニをぽいっと畑に投げた。まぁ、あれくらいで絶命することでもないだろうけれど。
星空観測は悪くなかったけれど、最初に目を慣らすためと、プラネタリウムを見せられたのがよくなかった。絨毯の上に横になり見るので、私たちはそこで爆睡してしまったのだ。不覚である。いったん寝ると寝起きの悪い私は、結局屋上での講習も、ものすごく立派な望遠鏡での講習中も、ずっと居眠りをするできの悪い生徒だった。そのたびに、気配を察した相方に起こされていたが、後に聞くと彼も寝ていたらしい。(正直なところやっと)星空観測が終わって表に出ると、オジィちゃんが迎えに来ていた。「どうだった?ちゃんと見れたか?」と聞かれても、私は正直に「寝ていました」という勇気がなかった。
講習会での爆睡とほとんど境がなく、部屋に帰ってもまた死んだように眠った。日中、ずっと日に当たっていたから、身体がめちゃくちゃ真っ当になっていたらしい。
翌朝は、夜明けに鶏より早くシャンと目が覚めた。私たちは10時前の飛行機で帰るため、朝は早々に宿を後にした。宿を発ち、空港まで送ってもらう途中、ヘルパーさん二人がオジィちゃんのうわさ話をしていた。送ってくれとうるさい、とか、寂しがるからとか、それでは間に合わないと言われた、といった内容だったと思う。そのときはオジィちゃんは都会のサラリーマンのように一体急いでどこに行こうとしているのだろう、と疑問に思っていたが、空港について判明した。そのオジィちゃんは波照間空港で働いていた。
私たちが入ってきたのを見ると「航空券を出して」と言われた。先にも書いたが、波照間にも勿論空港がある。ただし空港が機能しているのは緊急時を除くと、9時半に石垣から来る便を迎える準備と、10時前に石垣に帰っていくRAC便を見送った後のほぼ1時間くらいのもんだろう。売店もあるが、すぐに閉めてしまう。
□画像はRAC機から見た波照間島全景
だから<みのる荘>と空港の人の二足のわらじがはけるのだろう。売店のジューススタンドは、地元の人らしき人のたまり場になっていた。ここにたどり着く荷物を受け取りに来ているのかもしれない。空港まで送ってくれたヘルパーさんも、ジューススタンドでくつろいでいた。私たちが航空券を差し出すと、オジィちゃんは慣れた手つきで、私たちの席に○をした。私が横から「Aの席がいいです」と言うと「Aの席はとられました」と言われた。不思議である。空港にいる人々には、とてもこれから出掛けようとか、旅人らしき姿は見受けられない。まぁ、席を外しているのだろうと諦めてたが、いっこうにそれらしき人は現れない。そうこうしているうちに、オジィちゃんは「手荷物検査をします」と言い、パーティションで区切られた小部屋の扉を開き私たちをいざなった。どこの空港にもある、金属探知器の枠がある。私が荷物を置いてそこに立つとオジィちゃんはおもむろに、側にあったモニターのスイッチを入れた。これで荷物を観察するのか?まるでテレビのようだが...と思っていると、本当にただのテレビでワイドショーを放送していた。オジィちゃんはサービスのつもりでテレビをつけてくれたらしい。そして私の荷物を持ち「中を調べていいか」と了解を得てからカバンの中をカンタンにあらためた。「ナイフは持ってませんか?」とマニュアル通りのことを聞かれたので「持っていません」と答えると「ナイフを持ってないか調べないと。私もこの便で行くからハイジャックされたら困る」と言い出した。おいおい、ひょっとして、既にとられたAの席ってオジィちゃんか?検査の終わった相方と思わず顔を見合わせて笑ってしまった。Aの席を取られて「出遅れた」と私は悔しがっていたが、空港で働くオジィちゃん相手では、いくらがんばっても無理だ。検査を終えたオジィちゃんは「新婚旅行か?」とか私たちをひとしきりからかって出ていった。その後は、一応搭乗手続きを経てしまったので出発まで、何もないテレビだけがある小部屋に軟禁状態である。ただし「トイレに行きたかったら行ってもいい」というユルい決めごとであるようであるが。出発が近づいた頃、中学生くらいの制服の少年と体操着姿の女性が出発ロビーに顔を出して腰掛けた。もちろん検査はなしである。少年の母親らしき人がロビーに出入りして「頑張って走るんやで」というようなことを言って少年を激励していた。どうやら県大会の予選でもあるらしい。少年は年頃からして反抗期なのに、母親の激励にハキハキと返事をして、ちょっとハイになっている様子でかわいかった。RAC便に乗り込むと、既にオジィちゃんが乗っていた。私たちはCの席に座った。来たときと同じように、プロペラ機はバタバタと音を立てはじめた。客室乗務員は、客兼のオジィちゃんである。パイロットの「離陸します」という合図とともに機体は一気に加速しアッいう間に海の上を旋回していた。窓からさっきまでいた波照間島の全景がみえる。平坦で周囲をリーフで囲まれた美しい島(画像参照)。今度はいつ来ようかと、さっそく考え始めていた。機体が安定し、そろそろ新城島(パナリ)が見える頃に、オジィちゃんが「こっちに座ってもいいよ」とAの席を譲ってくれた。私はお礼を言い、新城島、黒島、小浜島、西表島、竹富島、そして石垣島の空中巡りを堪能させて貰った。降り際にもう一度オジィちゃんに礼を言うと、照れくさそうに「ちゃんと見えたか」と言ってくれた。オジィちゃんは不器用ないい人だった。私は「はい。いっぱい見えてとてもよかったです。」と、さっきの少年並にハキハキと答えていた。(つづく) 

次回・第7話=竹富島「とてもキレイな宿に泊まった」