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☆島旅2000秋(第5話=波照間「日本最南端の午睡」)
書いた絵はがきを郵便局で投函した。波照間の景色の入った「最南端」の消印を押してもらった。そしてそのまま、<日本最南端の碑>のある高那海岸に向かうことになった。先にも書いたけれど、高那海岸は集落から遠くにある。いったん空港の方まで島の中央を走って、南に向かいややしんどいアップダウンを超えて海に向かうと日本最南端にたどり着く。風がきついので、登りも立ち漕ぎでキツいけど、下りも風を受けて、日頃の運動不足を感じバテかけたところにようやく海が見えてきた。
高那海岸は砂浜ではなく絶壁になっている。だからといって東尋坊のような名勝ではない。ゴツゴツとした岩場が海まで続いているだけだけど、見渡す水平線に島がひとつも見えず爽快だった。大袈裟だけど、絶海孤島の気分。最南端の碑は後回しにして、側にある四阿に日差しを避けて逃げ込んだ。ペットボトルの「さんぴん茶」がおいしい。風がますます強くて帽子も飛んでいきそう。相方は絶壁の方まで自転車で一気に降りていった様子。高所恐怖症なのに大丈夫かなぁと思いながら、四阿で横になる。涼しくてとても気持ちがいい。うとうとしていたら、ガサガサという音で目が覚めた。人が来たのだろうとしばらくそのままでいたけど、何か音が変なので見てみたら、相方の荷物を、カラスが加えて引っ張っていた。「!」私が目を開けたのに気づいたのか、カラスはバタバタと後ずさりした。悪賢くて、私が目を閉じると、また荷物を加えていた。片目を開けてそーっと覗くと、荷物の側で、キョロキョロと辺りを窺っていた。まるで、万引きをしようとする中学生のような様子がおかしくて「わーーーーーっ!」と大声を上げたら、びっくりして飛んでいった。水平線近くに揺れると評判の高速ボートがえっちらおっちら行くのが見える。遠目に見ても揺れていたけれど、相方のビデオでズームにしてその姿を見ると、驚くほど揺れていて、
乗ってもいないのに、気持ち悪くなりそうになった。相方が戻ってきて、しばらく休憩した後、一応、最南端の碑を見に行ったけれど、一緒に写真を撮るのを忘れていた。集落の方に戻るために、自転車にまたがった。来たときと違う道を行こう。島一周道路をぐるっと回ると、カンタンな囲いの中に牛や、山羊がわさわさといた。
□画像は最南端碑そばの四阿
山羊は放してあるが、おそらく野良山羊ではなく、飼われているのだろう。道路にもいたし、小道の木々のしげみの中からも、姿は見えずとも鳴き声が聞こえてきて、思わず情が移りそうになった。途中、なんにもないところに山羊がつながれてしきりと鳴いていた。案の定、相方はビデオを抱えて、鳴き声を真似ながら近づいた。「メェ〜」と会話をしている、その様子がおかしくて、私も二人をカメラに納めた。ついでに、側には牛がいる。相方は、牛を見ながら「ほらあの牛、耳の所に100g250円って書いてあるで」と言った。よく見えなかったので、「え?どこどこ・・・」と私が探していると「・・・冗談やん」と小さい声で言って、また山羊としばらく会話をしていた。道はあるけれど、結局、車とは一度もすれ違わなかった。辺りは静かで、山羊と相方の「メェ〜」という話声が聞こえるだけだ。どこまで行っても、牧地と道と牛と山羊しかいないせいか、島一周道路はとても長く感じた。ここはどこだろう?と思い始めた頃ニシハマビーチの近くの知った道に出た。<パナヌファ>の近所である。「ちょっとお茶でも飲まへん?」と相方に声をかけて、<パナヌファ>に向かう。厳しい日差しの坂道を上り、喉がカラカラになって<パナヌファ>に飛び込んだ。相方はビールを私はラッシーを頼んだ。ラッシーもおいしかったけれど、建物の中はひんやりとして心底くつろげた。木で出来た椅子は引くときにガラガラと音を立て、遠くでかすかに猫の鳴き声がした。そういえば、お昼に来たときにも猫がいたっけ。整頓されていないけれど、どこか異国を感じる厨房は全くのオープンキッチンであった。<パナヌファ>を出て、再び自転車で辺りを放浪する。サトウキビ畑に挟まれた小道を自転車で駆け下りて、舗装されていない坂道を、立ち漕ぎで登ったとき、私は、理由もなく感動してしまった。後にして思うとこの瞬間に、私はこの島に惚れてしまったらしい。(つづく)

次回・第6話=波照間「みのる荘のオジィちゃん」