05:レディ・ジョーカー/高村薫
最近やっと読めるようになった高村薫さんの小説。スゴイ作家という予備知識はあったし、実は勤め先の社長にもらった本が
2冊ほどあったのだけれど、なんとなく取っつきにくく読めなかったのである。
きっかけは勤め先の先輩(勤続年数は私が上だが、年とキャリアは彼が上)が『「レディ・ジョーカー」を読んだら他の推理
小説は読めへん』と言っていたから。そのことを友人に話すと『私の夫(なんと現役の刑事さん)もすごく好きだと言ってい
た』とのこと。うーん、そんなに面白いのか。では読んでみるか、と中古で購入して読んでみた。
あとからわかったが、これは高村さんの小説の中でも、わりと取っつきやすい(俗な言い方をするとキャッチーな)部類だっ
た。そういうこともあり、漢字が多いだの表現が濃密でしんどいだの、ブツブツ言いながらもあっさりと読めた。
感想は、まぁ面白かった。予備知識がなければ、もっと面白いと感じたかもしれないけれど、たまたま読書レベルの高い人か
ら『おもしろい、おもしろい』と聞いていたため、ハードルがかなり高くなっていたのだろう。読後はそんなにスゴイとは思
わなかった。・・・・・が、本当に効いてきたのは、次に何か別の本を読んでいたとき。
んーーー・・・何かものたらんっ!
結局、高村さんのマジックに見事にはまり、もらったまま未読だった「マークスの山」を読み、中古で買った「黄金を抱いて
翔べ」と「神の火」を読み、すっかり高村フリークになっちまった。
ここで、高村さんの作品の傾向を分析。
男達 主役はいつだって「男達」である。「おとこ」でも「オトコ」でも「男」でもなく「男達」
知らなかったら、
高村薫も男だろうと思ってしまうくらい、男の世界である。
さらに、毎回、その男達の間にあやうい感情があったりする。それが、さらに生臭い男の世界を
引き立てているのである。嗚呼・・・男って、男って・・・。
外国人 さらに毎度、外国人もしくは日本で育った外国籍の人が「男達」の中に加わっている。
下町 舞台はいつも下町である。「男達」は決して裕福ではない。
守るものは
何もない
「男達」には身寄りや社会的な地位など、守るべき物がない。
ささくれた日々を、淡々とやりすごしているだけである。それがあることをきっかけに犯罪に
かかわることになったとき、一気に世間をゆるがす存在に。まるで捨て身な犯罪。
うまく言えないけれど、
ぷすぷすとくすぶっていた火種が、大風であおられて、たまたま
風下に燃えやすい物があり一気に炎が広がるような
印象。
「男達」はつねに孤独である。個であっても集団であっても。孤独ではあるが、寂しいのとは
違う。これは犯罪をおかす側だけではなく「それを追う男達」にも同様の虚無感がただよう。
祈り 「それを追う男達」がクリスチャンで教会に行ったり、「男達」の中に教会の記憶があったり、
ロシア語の聖書が登場したり、キリスト教のエッセンスがあちこちにちりばめられている。
圧倒的な
取材力
テーマがいつも大胆であるが、その世界に精通しているような緻密な表現である。
どういうルートで取材をされているのか、ものすごく気になる。
  
レディ・ジョーカー:ビール会社、競馬場や警察の描写
  
マークスの山   :精神病棟、警察の描写
  
黄金を抱いて翔べ :銀行の内部
  
神の火      :原子力発電
さて、肝心の「レディ・ジョーカー」のストーリーは・・・。
それは、とにかく読んでいただきましょう。『本当に、面白い!』から。笑。
レディ・ジョーカー
         (上・下巻)
(毎日新聞社)

著者:高村薫

ISBN:4620105791
サイズ:単行本 / 426p
発行年月: 1997年12月
本体価格:1,785円(税込)

(以上、上巻)
ちなみに小麦的ベストof高村薫は・・・(04/10/10現在)
神の火(出版社:新潮社)
<以下、上巻>
ISBN:4101347123 サイズ:文庫 / 400p

読んでない中に、まだまだベスト1がひそんでそう。
とりあえず、どうやってこの小説を書いたんだろう?と
思うくらいリアルな原発施設や原発のしくみが描かれて
います。私はもらった新書版で読んだのですが、ラスト
の数ページはいかようにも解釈できる内容だった。
文庫版ではもしかしたら、加筆されているかも。